北陸電力 丹生変電所のパズルピース(福井県福井市坪谷町)

鉄塔や変電所巡りの醍醐味ってなんでしょう。もちろんその一つ一つの造形や周囲の風景との調和の美しさ、歴史考古的な面白さもありますが、その中でも楽しい要素の一つは「謎解き的な楽しみ」だと思います。

鉄塔は遠くから見ると単なる鉄塔でしかないのですが、そこには系統名や番号があります。それは近くまで行けば銘板(プレート)や回線板でわかるのですが、遠くからだとせいぜい頭の部分の「代表番号」しかわかりません。それだけではそれが何の系統名の番号なのか、さてまた併架(一つの鉄塔で複数の送電系統が共有されている場合)だともう一つの番号と名前はなんなのか? 山の上など簡単に近づけない鉄塔ほど簡単にはわかりません。それを前後の鉄塔、また交差されてるその先まで行って番号を辿り推測して答えを当てる。そんな「謎解きパズル的な楽しみ」が変電所・鉄塔巡りにはあるのです。

今回はそんな観点で楽しめる、ちょっと手ごわい変電所。福井県福井市の西側、登山で人気の乙坂山の横にある「丹生変電所(にゅうへんでんじょ」を紹介します。

概要とアクセス

福井県系統図154k以上

北陸電力の系統図にも出ていませんが、丹生変電所は新武生変電所と北庄変電所、新福井変電所、松岡変電所と共に構成される154kV環状線の一つとして接続されています。

福井市の西側、福井健康の森の方向から県道32号線に乗ると、まず見えるのが南の山の上の4回線角度鉄塔。

ふくい健康の森の方向から見える角度鉄塔

丁度90度の角度が上下で180度ずれていて調和がとれた形をしています。心なしか腕金も長く乙坂山側にいくつか見える鉄塔の中でも一際存在感を醸し出しています。

細い農道の先にみえる丹生変電所

地図によれば丹生変電所はこの辺りなのですが、直接は見ることはできません。県道32号線からやや細い農道を進んだその奥にひっそりとあるからです。

丹生変電所の難しさと面白さ

北陸電力 丹生変電所

道は回り込むように変電所に続いています。高台にまるで飾られる様に丹生変電所は待ち構えています。まるで街の配電用の変電所の大きさですが、小高い場所にあるその様はなんとも誇らしげでとても格好がいいです。

周辺鉄塔は3本のみ。それぞれ4回線なのでおそらく6系統出てそうですが、少ないので把握も楽勝でしょう。

・・と思ったのが甘かった。

実はこの丹生変電所、引き留め鉄塔3本とも一つも銘板が確認できないのです!

3本の鉄塔

というのも3本のうち南と西の2本は変電所の周りの山の上段に立っているので足元は木でみえず、もう一本の西側は写真右奥の門の奥。さあ、どうしましょう。

北陸電力丹生変電所154kVブロック

丹生変電所 南側引き留め

南側はこんな感じで4回線が引き留め鉄塔に接続されそのまま山を登っていっています。まずこういう時は変電所側の引き留めゲートを見ます。なぜかというと、(必ずではないですが)回線名の札が付けられている事があるからです(ただし大抵は内側の若番方向なのでみれませんが!)

新武生丹生線1L

北庄丹生線1L

ラッキーなことに西側2つは辛うじて外側から確認できました。新武生丹生線と北庄丹生線、どちらも154kVで、冒頭の接続図でいう北庄変電所と新武生変電所の線の間の線になります。ということは西側が154kVブロックということですね。

丹生変電所付近接続図

丹生変電所付近接続図

つまりこんな感じで東西にブロックがわかれていることになり、西側からの2本が上記の2系統となります。

来る時見えた左右に分かれていた目立つ4回線角度鉄塔はその先で北庄と南武生に左右に分けるための鉄塔です。

新武生丹生線・北庄丹生線の銘板プレートは足元が林なので見えませんが、頭の番号は双眼鏡で確認できました。

42番

42番とあります。2系統あるので、どちらが42番なのでしょう?

確か新武生変電所に行った時に確認したのは新武生丹生線の1番鉄塔、北庄変電所に行った時に確認したのは北庄丹生線の1番鉄塔でした。つまり眼の前の鉄塔は両系統とも1番鉄塔ではないということだけはわかります。どちらがが40番なのか。一つ疑問です。こういう時は、銘板確認ができるまで送電線を追うしかありません。それは後ほど。

さて、おそらく反対は77kVブロックになるのでしょう。それではその4本は一体?

北陸電力丹生変電所77kVブロック

残念ながら77kV系は変電所の引き留めゲートの記載は読み取れません。

先程も書きましたが南側は山の上です。巡視路でもないかなと付近を歩くと・・・

あった!吉川線40番巡視路

ありました!南側鉄塔の麓の巡視路は吉川線40番とありました。ということは上の図で言う紫か緑のどちらかが吉川線40番となります。

南側鉄塔40番

双眼鏡で頭をチェックするとたしかに40番とあります。むしろこれが40番じゃなかったらもう一つの系統の番号がわかるのですが・・・。残念ながらこれだけではわかりません。もう一つの系統も40番の可能性もあります。

最後に西側の鉄塔の頭をチェック

西側鉄塔は1番

西側の鉄塔は1番でした。つまり接続図のオレンジか黄色のいずれか、もしくは両方が1番ということです。

この変電所の横で得られる情報はこれくらいです。一旦この場を離れます。目的地は乙坂山の東側、オレンジと黄色が降り立つ場所です!

乙坂山東側

乙坂山東側に降りてきている

県道32号から東側に降り南下、予想どおり4回線鉄塔が降りてきています。

乙坂山東側鉄塔

町中に見えましたが鉄塔は田園の中でした。さあ銘板を拝みましょう。

江守線33番西武生線6番2002年6月

江守線33番、西武生線6番とあります。変電所側を見上げれば分岐している様子もありません、またどうみても間には30本以上はなさそうです。つまり、丹生変電所の1番と書いてあった鉄塔は「西武生線1番」であり、33足す6引く1で38、「江守線38番」の併架で決定です。

さて、この調子で今度は上の接続図の紫と緑も簡単に見つかりそうです。乙坂山の南にまわります。ところが・・・・

乙坂山南側

乙坂山南側 4回線が降りてきている

乙坂山の南側です。案の定、4回線が降りてきています。銘板も簡単に確認できそうです。田圃道を少し歩いて鉄塔の下まで。銘板を覗き込みます。そこにあったものは・・・・・

吉川線33と・・・新武生丹生線34!?!?(1975年4月)

吉川線33と・・・新武生丹生線34!?!?

おかしいです。変電所で1系統は吉川線だったのはこの目で確認しました。でももう一つが新武生丹生線であるはずがありません。なぜなら新武生丹生線は南ではなく東の鉄塔に接続されているのをこの目でみましたから!

新武生丹生線34吉川線33から乙坂山方向。この先で何が!?

乙坂山宮ノ西団地の谷へ

乙坂山の小山脈は逆Uの字の様になっていて、間が谷状になっています。そこは団地になっていて道が途中まで続いています。

真相はこの谷にありそうです。細い道を谷の行き止まりまで走りました。そこで見たものは・・・

山の上の6回線角度鉄塔

街中ならともかく、まさかこんな山手で見るとは思いませんでした。腕金12本の6回線鉄塔。これが乙坂山の稜線に建っていました。数えるとさっきの新武生丹生線34吉川線33から3本目の位置です。

しかも中段下段は角度構造。下段と中段は丹生変電所側から受け止めて中段を90度近く曲げて左側に落としているのがわかります。そして下段は右側に、しかも上段は左側からそのまま直進で下段と並走。

謎が解けました。

乙坂山宮ノ西団地の谷より北側接続

つまり紫色が巡視路の立て札で見た吉川線で、水色が西側に出て2番めの例の2段角度鉄塔から分配されてきた新武生丹生線。それが次の鉄塔で併架されて山を降りているというわけです。だからその先の鉄塔はこの2つの併架だったわけですね。

そこからわかるのは、まず丹生変電所南側の4回線77kVの下側が吉川線40番で確定、また丹生変電所西側の4回線154kV鉄塔に書いてあった42の数字は新武生丹生線42の42を指していたということです。(眼の前の6回線は37番、例の2段角度鉄塔まで3本、そこから2本めで42でぴったりです)

最後の鉄塔

だいぶパズルが埋まってきました。それでは最終段階のピース。こいつです。

6回線中段から降りてきた単独線路

さっきの6回線中段から左側に降りてきたこの系統。丹生変電所南側の吉川線40番の上に乗っていたこれは一体?

番号だけはわかる、6番

双眼鏡で番号だけ6番ということはわかりました。おそらくですが、この(X線としましょう)X線の1番と吉川線の40番の併架が丹生変電所の南側の鉄塔です。

そしてこのX線、銘板確認する気も起こらないくらいの山の中を西に行進して行ってしまいました。結局この場でX線の名前を判定するのは無理そうです。

一旦丹生変電所に行ってまとめましょう。

丹生変電所接続図

丹生変電所接続図 周辺

結局はこの様な交差が南で起きていたということですね。丁度交差点が例の6回線鉄塔となります。

丹生変電所東側鉄塔 江守線38番・西武生線1番

東側、黄色とオレンジは江守線38番・西武生線1番で確定です。

丹生変電所 南側引き留め

西側の154kV4回線は新武生丹生線40番・北庄丹生線n番。

そして南側。

X線1番・吉川線40番

このX線が何者かです。

残りの2ピース

あとはパズルは2ピースです。吉川線40番は何線の1番と併架なのか、また新武生丹生線40番と併架なのは北庄丹生線の何番なのか。基本を忘れずに。足を伸ばして送電線を追います!

結果

結論ですが、驚くべきことに新武生丹生線42番の相棒の北庄丹生線はなんと同じ42番でした。何という偶然かそういう設計の必然か。中の人のみが知るところです。

そして最後のX線。これは辿ると山の中を西へ西へと行進していました。そして最後の変電所で見た銘板がこれです。

織田線最終銘板

はい、X線=織田線でした。丹生変電所南鉄塔は「吉川線40番・織田線1番」だったということですね。

この木の枝のからみ具合からわかる様になかなかすごいところにありました。接続先はその名も織田変電所。良い鉄塔とも出会えたので、また今度レポートしますね。

最後に

北陸電力 丹生変電所

今回はいつもと違って結果だけの紹介ではなく、実際に変電所に行ってみて、体験したこと、番号と系統を予測し、ハズし、なかなかの手間と時間かけて本当の答えを見つけ出せたこと、そんな感じの体験談風に丹生変電所を紹介ししました。

変電所や周辺では一般的に交差や埋設が多用されており、こんな事がよくあります。苦労といえば苦労ですが、頭の中のパズルが全部埋まった時の喜び、これが冒頭に書いたような鉄塔・変電所巡り「パズル的な面白さ」であります。

単なる情報としては、多少冗長でしたが、これを読んだ方の一人でもそんな、「醍醐味」を感じて頂けるのであれば何より幸いです。

それでは。

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