サーフィンのキャッチの原理と仕組み
サーフィンYoutuberのHowTo動画を見ていると方法が矛盾しているのが気になりませんか。「板は水平がいい」「前傾がいい」「パドルは最後まで必死にやった方がいい」「パドルはほとんど必要ない」などなど。
結論はどれも間違ってはいないです。結局ハウトゥなので結果がともなえばそれで正しい、となるのです。
が、結局それが有効なのは波・板のバランス次第。普遍的に有効な知識は「原理」です。
ということで様々な動画を見まくり本を読みまくった結果のキャッチの「原理」をまとめてみます。
目次
サーフィンのキャッチには3種類ある
サーフィンのキャッチには3種類あります。スープキャッチ、うねりキャッチ、そしてブレイクキャッチです。
スープキャッチ
スープキャッチは波が割れた後、直進してくる水流を推進力としてキャッチする方法です。水流はだんだん弱まっていくので比較的短時間で減速してしまいます。方向も水流次第。
キャッチはスープ化してからいつでもいいので非常に楽にキャッチできます。
ここで重要なのはボードの浮力。浮力のないハードボードだと応力が出ないのでスープだとほとんど進みません。
ソフトボード等、高浮力ボードだと、その反発力はすさまじくジェット機の様に加速していきます。
初心者がサーフィンを楽しむのに一番おすすめなキャッチと呼ばれており、ソフトボードの性能をもっともよく活かせる方法です。
うねりキャッチ
これはサーフィン動画の定番の目標キャッチ方法です。波が割れる前の状態から加速してしまう、という方法。。
メリットは重力加速を行うのでコントロールしやすいこと。ターンによって再度波に登れるので横向きにロングライドしやすいことです。
デメリットはかなり難しいこと。なのでサーフィンスクールや動画ではよく題材にされます。この原理は後で説明します
ブレークキャッチ
波というのは沖から来ているように見えますが、実は水自体はその位置から動いていません。テーブルクロスをバダバタさせるのを思い浮かべてください。クロスにできた波は確かに移動していますが、布自体はそこで上下しているだけですよね。
なのでうねりの水は進んできていないのです。進んできていない水で加速するのですから難易度が高いのは当たり前。となります。
そこで理想的なのがこの「ブレークキャッチ」となります。プロの動画を見ているとわかりますが、プロショートボーダーのほとんどがうねりキャッチではなくこのブレークキャッチを行っています。
波の水は進んできていないと書きましたが、その力は岸に向かって進んでいき、最後には破綻して岸に向かう水流に変化します。その点が「ブレークポイント」です。
先に、スープキャッチは簡単だが勢いが続かない、と書きました。
また、うねりキャッチはコントロールしやすく持続可能だが難易度が高い、と書きました。
それらを補完しあうのがブレークキャッチです。
ボードをブレークポイントまで持って行き(後述)、ブレークポイントで直進水流を捕まえます。その時点で高さがあるので斜面を降ります。あとは、うねりキャッチと同じメリットを享受できます。
直進水流を捕まえるので、うねりキャッチよりも初速があり、かつ、波が最もせりたった(掘れた)ポイントからスタートできるので、最も加速が得られる方法です。
あえてデメリットを言うと、この「ブレークポイントに合わせる」のが難しいこと。これには正確にブレークポイントに移動するパドリング力が必要となります。
サーフィンのうねりキャッチの原理
それではどうして、うねりで加速できるのでしょう。先の3つのキャッチのうちスープキャッチとブレークキャッチは「直進水流」を使っているので加速するのは容易に想像できます。
ところがうねりでは「直進水流」がないため、ボードを押す力がないはずです。
そこで出てくるのが「重力」なのです。
極端なモデル(50mのボード)
極端な想像をしてみてください。50mの長さのサーフボードがあり、沈まない程度の重りを置きます。そこに2mの高さの「うねり」が入ってくるとします。
サーフボードの後端は2mの高さに向かいせりあがってきます、が、サーフボード自体が下に落ちる力が働くので、サーフボードの後端は「うねりの坂」をすべり「前」に進みます。
すなわち、スープやブレイクの「直進水流」がなくとも、うねりによる水の高さ変化により、サーフボードは前に進むのです。
これがサーフィンでうねりキャッチができる根幹の原理です。
極端なモデル(1mのボード)
でも実際はサーフボードは50mもありませんよね。
例えば同じ条件でサーフボードを1m、波を2mとしましょう。するとどうなるでしょうか。
これは「波の角度」によります。
ここでまた極端な話、「垂直近くに掘れた波」だとします。
まずサーフボードの後端が上がり始め、そこから一気にサーフボードは垂直になります。次の瞬間は・・当然めくれますよね。パーリングという状態です。
反対に15度程度の「とろい波」だとします。
この場合は、後端が上がり始め、15度の角度になりそのまま先端が上がります。そのままの角度を保ちながらサーフボードは波のトップへ。そしてまた15度の坂を下っていきます。そう、全く進んでいません
これはどうしてかと言いますと、ボードと水の摩擦があるのでこれくらいの角度では「滑る」状態にならないからなのです。だからその場でとどまります。
これは角度が急でも同じで、波の坂を上るということは、その摩擦に耐えているからであり、そこからいきなり「滑る」ことはありえません
そして角度をだんだん急にしていくと今度は一気にめくれてパーリングする、というわけです。
うねりをキャッチするにはロングボードが適している
そこで波の高さ=後端の高さに対して先端との角度を緩くする、つまり上の例で1mだったボードの長さを3mにすることで掘れた波でも3:2つまりasin(2/3)=41.8度となり比較的緩やかな角度でボードが前に進みます
なのでここからわかるのは、うねりをキャッチするにはロングボードが適している(が、波の高さの1.5倍を下回ると破綻する)ということです。
どうしてショートボードでキャッチできるのか
さて、上まででうねりをキャッチするにはロングボードが適していることがわかりました。そこで本題。
どうして波の高さの1.5倍未満であるショートボードでうねりキャッチできるのかです。
そのまえに、「ブレークキャッチ」も含めて、どうやって「波に上るのか」を解説します。
先ほど、「ボードと水の摩擦があれば勝手に高さは上がっていく」と述べました。これは波の角度が浅い(とろい)場合です。これはほっておいても登ります。
それでは深い場合はどうでしょう。
これは勝手には登って行かず、ボードが短いと後端が高くなりすぎてパーリングする、でしたね。
そこで使うのが「加重」です。
つまり後ろ方向に加重するのです。すると、ボードの後端(と足)が波の斜面に「刺さり」ます。すると掘れた波でも、ぐっと上昇するのです。後方加重でボードの先端は浮いているので水に刺さってパーリングすることもありません。
「強烈にパドルをしろ」と教える人がいるのはここです。 強烈にパドルをするとジャイロ効果で後方加重になるのです。 同じ意味で、「ぐっと腕を立てる」のも同じ効果を得られますし、「体をそって足を延ばす」のも同じです。
さて、無事掘れた波でも短い板で波に「登る」ことができました。やった!・・と思うのもつかの間。そのままですとそれで波が前に去って終わってしまいます。
ずっと波に刺さっているのですから当然ですよね。
そこでその「刺さっている時」にちょうど波がブレイクするポイントを合わせて「直進水流」を受けて加速を始めるのが「ブレイクキャッチ」というわけです。
ここで加速すると十分な高さから「発射」され、波を下降していきます。滑らかなボードの下部と水面の間には空気の層ができて高速で移動する水流にはじきかえされて低摩擦状態になります。(滝に触ったことありますか?あのはじき返される感じです)。すなわちハイドロプレーニング状態の完成です。
ハイドロプレーニング状態の低摩擦状態になればボードは引っかかることなく波の斜面を下降します。十分な高さとブレイク水流の勢いで最高のキャッチの完成です。
なお、この「ブレークキャッチ」は波の見極めとパドリングコントロールがポイントです。プロはこれを行います。
ブレークキャッチじゃなくてもうねりキャッチできる原理とは
さて、理想的なキャッチ、「ブレークキャッチ」のトリガーは「ブレークポイント」を超えてくる「直進水流」でした。
また、直進水流がなくても、「波の高さの1.5倍」のボードがあれば推進はできることも先に述べました。
でもショートボーダーは、ブレーク(直進水流)がなくても、波の高さの1.5倍未満の短い板でもキャッチしています。
これはどうしてなのでしょう。
ちょっと思考実験をもどしましょう。
後方加重でボードのテールを「波にひっかけて」、波のフェイスを登る、ここまではいいですね。
そして「ブレークキャッチ」ではここで後ろからの「直進水流」をあわせました。でも今の思考実験ではそれはありません。
後ろからの力がなく、そのままでは水とボードの摩擦で滑り降りていかない状態。ここからどうやって「加速」するのでしょうか。
それが実はまたもや「加重」なのです。
今、後方加重で波のフェイスにボードの後端(テール)と足が刺さっています。その状態で一気に前に加重するのです。具体的には、「頭を落とす」「後ろ足を曲げる」などです。
すると、ボードの先端(ノーズ)に重力加速力+αが加わります。すると空中に浮いていたボードの先端付近が十分な加速=力と共に水面のフェイスに打ち付けられます。
この時点で「速度の特異点」を超えていると、跳ね返りが起きて、無事ハイドロプレーニングに入り斜面を降りれる、というわけなのです。
ただ、そのまま前荷重を続けているとノーズが刺さりパーリングします。
なので、加重は一瞬だけ、すぐに腕を立てることでジャイロ効果でテールが下がり=ノーズが上がり、無事、バーリングせずにテイクオフできる、というわけです。
サーフィンのキャッチの原理のまとめ
こうやって書くと非常に複雑ですね。
上手い人はこれを無意識にやっています。むしろ上手すぎて「無意識以外ではできない」のです。
たしかに、「前荷重」もしますし「後方加重」もしますし「ボードを水平」にもします。波を登るのに「強烈パドル」するのも有効ですし「体を反る」のも「アゴを付ける」のもすべて間違いではありません。
ただ、それは上記の一連のシーケンスの中の一部分でしかないのです。
上手い人というのは上手すぎてしまい、無意識部分には触れられないが故、人に説明するときは断片的な情報しかでないのです。つまりそれらはすべて正しいのですが、十分ではありません。
サーフボードがキャッチされる、その普遍的な「原理」を意識することが迷わずに練習するポイントを得る秘訣なのです
以上