石川県庁鞍月の空中レーザーが止まった話
ちょっと前の話ですが、石川県金沢市では夜になると緑色の一筋の光が暗い夜空に見えたものです。石川県庁の近くのモニュメントから発せられたレーザーで方向は南向き。
かなり遠方の山手の方からでも夜空にはっきりと見えました。
しかし今現在、あのレーザーはまったく見えなくなりました。どうしてでしょう。ここではそんな金沢市上空をかつて横断していた緑色のレーザー光線について起きた出来事を書こうと思います。
目次
6月初旬 緑のハリガネ
「またあの緑だ」
いつものウォーキングの途中。金沢郊外の遊歩道から星空を見るのが楽しみでした。市街地では街の明かりで殆ど見えない星も、郊外の散歩道からはよく見え、月々移りゆく星座を見ると季節を感じます。
たしかあの緑色のレーザーは昔も出ていた記憶があります。しばらく見なくなったと思っていたのですが。
方向は石川県庁の方。6月の夜空に浮かぶ乙女座を引き裂く様に緑の刃が突き抜けています。
あまり神経質な方では無いのですが、星は大好きなのでせっかくの自然の星空が人間の意思で汚された様な不快感に見舞われました。
6月中旬 鞍月のモニュメント
レーザーの出もとを見ようと追いかけてみました。最初は石川県庁かなと思ったのですが、少し違って県庁前道路を港の方に走った辺り。
道路を左右から包み込むようなモニュメントがあり、その片方からレーザー光線が上空に向けて放たれていました。
もちろん金沢は観光都市であり、こういった観光客の気を引くモニュメントは有効なのはわかります。しかしながら、星空を見る事を捨ててまで、そのようなことをしなければいけないものなのでしょうか。
金沢は人口もそれほど多くなく、人口密度も少し郊外に行くだけで急激に減りますので、ほんの僅かな移動で素晴らしい夜空を楽しめる良い街です。
そんな金沢の良さが一本のレーザーで台無しになってしまっていることに疑問を感じずにはいられませんでした。
7月初旬 UFO
夏至を過ぎても日が落ちるのはまだ遅く、夕暮れの赤みに一番星がとても綺麗に映えます。ただ、日が暮れるとまた例の緑が出ると思うと、ちょっと残念な気分になります。
そういえば、ふと思い出した昔の新聞記事。まだ90年台だったかと思います。石川県でUFO騒ぎがありました。
アルバイト先の店主が外でタバコを吸いに行ったかと思うと慌てて戻ってきて
「UFOだUFOだ!」
と叫ぶではありませんか。まさかと思い外に出てみるとたしかに上空に光が飛び回っています。
後日、新聞に出ていたのはパチンコ店だったかガソリンスタンドだったかが客寄せの為に上空にスポットライトを当てていたとのこと。
結局そのスポットライトはしばらくは消えずに毎日夜空が無意味に照らされていたのを覚えています。
7月中旬 光害
そういえばあのスポットライト、どうなったんだろうとちょっと調べてみました。すると結局苦情で自粛によりやめてしまった様です。
そもそも空は公共のものなのに、1つの企業が独占的に客寄せで使うこと自体、不公平な話ですよね。
気になって少し調べてみました。そこで出てきた一つの言葉。
「光害(ひかりがい)」
照明の設置方法や配光が不適切で、景観や周辺環境への配慮が不十分なために起こるさまざまな影響をいいます。(環境庁Webサイトより)
環境庁が担当しているらしく、どうやら上のような客寄せのサーチライトも光害の一種なのだとか。
それでも金沢市(石川県)のレーザーは自治体がやってることです。そんなのもちろん考慮した上で問題ないという判断でやっているのでは?とも思いました。ガソリンスタンドとは違い、個人の利益ではなく県としての皆の利益の為ですから。
7月20日 環境省への電話
それでもどこか腑に落ちませんででした。民間がNGでどうして自治体がOKなのか。だめもとで環境庁に電話してみることにしました。
「はい、環境庁大気生活環境室です」
「・・すみません、光害についてお伺いしたいのですが」
電話では担当の方が丁寧に金沢で起こっている問題について詳しく聞いて頂けました。
結論としては、「照らす対象物がない明かりで街の夜間景観の悪化や天体観測にも悪影響を与えているものは光害である「可能性がある」」ということ。
ただ、一概に判断できるものではなく、やはり先に書いた様に、自治体としてそれを考慮してやっていることなので、「悪影響」の範囲外であると自治体としては判断しているのでは?との回答でした。
白とも黒とも言えない話ということですね。
結局、石川県として「あのレーザーは光害でない」と判断した上でのことかどうか、それが論点ということです。
8月1日 投書
ネット上で探した所、問題のモニュメントについてのプレスリリースがありました。名前は「MOON GATE」とありそこに堂々と「金沢西副都心のランドマークであると共に夜はライトアップされ、道路照明としての役割も果たします」とあります。
ライトアップ?
ライトアップというのは本来、なにか物があり、それに光を当てることです。空中に照射するのはライトアップとは言わないような。
なにか県の認識と現実起こっていることに矛盾のようなものを感じ、思い切って県に投書することにしました。宛先は(担当部署がわからなかったというのもありますが)、思い切って県知事宛。
そこには、以下のような思いを書きました。
- MOON GATEは確かに芸術的には素晴らしいが、上空へのレーザーが強力過ぎて10km以上離れた山間部からでも見えてしまっている
- 星空を見て楽しむのが好きだったのだが、それに明らかに支障をきたしている
- ライトアップとはものを照らすことで上空を照らすことではない
- 観光資源として有用なのもわかるから、せめて出力を落とすか夜7までの照射だけにしてほしい。
そして同じ文章を環境庁の担当の方にも送りました。この主張が個人的な因縁ではなく法として正しいことを確認してほしかったからです。
8月20日 何も変わらず
あれから3週間が過ぎようとしていますが、あいかわらず夜になると例の緑色は照射されています。
所詮一県民の知事への手紙なんてまともに扱ってもらえるわけもありません。そんなクレームの手紙なんて一日何百通も来ているのでしょう。
ちゃんと順番を追って、県議会議員とかにまずは相談するべきだったかな?とあきらめ状態。(そんなコネもありませんが)
8月も終わりになって日が暮れるのが段々早くなって来るのがわかります。
昔この道から見えていた綺麗な夜空が恋しいです。
9月1日 忘れた頃の電話
トゥルルー。電話の音。
「はい」
「こんにちは筆者さんですか?私、石川県道路整備課のxxと言います。」
「・・・え、あ、はい。」
「8月1日にあった手紙の件でお話がありまして電話しました」
なんと石川県庁から電話です!。1ヶ月間音沙汰がなかったので無視されたかと思っていたのですが。
「レーザーですが、方向を変更する方向で進める事となりましたのでご報告さしあげます。」
方向!?止めるんじゃないの!?
「レーザーはもともとモニュメントの壁にあてていたのですが、途中で寄贈者の方が改造されて空中に照射するようになっていたのですよ。それを元に戻す方向で今調整している所です。」
そういえば、石川県のホームページのムーンゲートの図はこんなのです。
レーザーは確かに対のモニュメントの壁に当たっています。確かにこれは夜空への害はなさそうです。
でも実際はこう
それにしても寄贈者が改造したって・・・。それを誰も止めなかったのもどうかなと思いますが(押し切られたのかも)。
「とりあえず、本日からレーザーの出力は落としますので、山手からは気にはならなくなるはずです。レーザーの方向を変えるのは時間がかかるのでもう少しお待ち下さい」
たしかにそう言った事情であれば県の職員の人がムーンゲートの設計変更するのはすぐには出来なさそうですね。出力を弱めるのは投書の妥協提案の通りです。
「こちらとしてもあまり時間をかける気はないので、方向についてもすぐに改善される見込みです。また進展がありましたらご連絡さしあげます。」
ということです。
大きな団体ならともかく、一市民の投書なんて軽く無視されるんだろうなと思っていた矢先なので、このような全面的に対応は意外でもあり、知事がそういった小さな声まで見ているということにとても感心しました。
話を聞いていたら、環境省との担当とも相談したとのことなので、国からのプッシュも効いたのかも!?しれません。
事を頼むなら2人に頼め、ですね。
9月30日 電話
「まだなんです」
県庁の担当者からの電話。あれから1ヶ月。レーザーの減衰はすぐに確認できていつもの散歩道からはほとんど見えなくなりました。それでも天空への照射はまだ続いています。
なんでも詳しく聞くと、減衰は簡単にできるらしいのですが、レーザーの方向を変えるには予算が必要でまずその見積もりからやっているとのこと。
箸を拾うのも稟議が必要なお役所らしい対応の遅さです。
「こちらとしてもあまり時間をかける気はないので」と言っていた言葉が思い起こされます。担当者レベルでは前向きに進めていただいている様なので気長に待つことにしました。
また変化があったら教えてくださいと9月の電話は切りました。
10月31日 電話
「先行調査中でして」
・・・・
先行調査とは他県で同じ様な事例がなかったら調査して参考にする作業なのだそうです。
「方針決定」→「見積もり」のなので、予算見積もりをしていた先月末より手順が戻っているような・・・。
少しでも進んでいたら安心するのですが、ちょっと不安になって来ました。
方針としてはHPの予定図にある様に柱の間をレーザーを通してもう一方の柱にあてるらしいのですが、そんなに難しいものなのでしょうか。
専門家じゃないのでわからないので深いことは聞けませんが、このまま立ち消えにならないかだけは心配です。
また1ヶ月変化がなかったら必ず連絡してくださいと強くお願いして10月の電話はおわりました。
11月30日 電話なし
電話なし。いつも月末に報告があるのですが今回はありませんでした。まさかそのまま立ち消えになったのでしょうか。。。
12月1日 また忘れた頃に
「いいお知らせです!」
1日遅れで担当さんから電話がありました。しかもいつもとは違う雰囲気。
なんでも予算と設計のめどがついて今月中にレーザーの方向が切り替わるそうです。かれこれ半年ですが、いよいよですね。
12月25日 年末
年の瀬。毎年かれこれ半年が経ちました。いつもはたくさん積もっている雪も今年は暖冬で少ない感じです。
ふと思い立って、鞍月に行ってみました。
夜の県庁は相変わらずゲーム画面の様にこうこうと電灯がついています。天気は霧。
建物の横を過ぎ金沢港へ向かう広い道路を北に走ります。
いつもなら例の緑色のレーザーが頭上に伸びているところです。
・・が
光線が見えません。
「いいお知らせです!」
道路整備課の担当さんの言葉が頭をよぎります。
もしかして・・・
!
レーザーの方向が変わっています!
以前は天空に向かっていて発射されていたのが、ちゃんとイメージ図の通り、反対側のモニュメントに当たっているではありませんか。
・・・イメージ図の通り??
イメージ図ではモニュメントを結ぶ橋の様にレーザーの軌跡が描かれていましたが、目の前のモニュメントを結ぶレーザーは全く見えず、照射された点だけが光っている様に見えます。
確かにレーザーって空気中のチリや水滴で反射して光っているだけで、それ自身は横から見ても直接は見えませんよね。見えるのはSFの世界です。
設計した人に悪いことしたかな?と思いながらも、昔のに戻った綺麗な夜空を見ながら、こうやって一県民の小さな意見でもをしっかり聞いてくれた知事に感謝の念を感じ、家に帰って一筆お礼の手紙を書かせていただきました。
ちなみに担当さんから連絡があったのはその次の日でした。
結びに
そんな感じで、石川県庁のレーザーの話はこれでおしまいです。
空はみんなのものです。今回は自治体でしたが、民間でもレーザーやスポットライトを上空に照射して目立たせようとする例もたくさんあります。悪気はないにせよ光が漏れてしまっていることもあるかもしれません。
もしそんな、光の害に困っている、または不快な気分になっている方がいて、この記事を見て、そう行った光害はなんとかしようがある事、また、なんとかした前例がある事を知ってもらい、お互いが譲り合い、より良い世の中になってくれるのであれば何よりの幸いです。
最後に、半年の間、素人で的を得ない意見にもかかわらず電話口で丁寧に対応してくださった石川県庁並びに環境庁の担当の方々、そして、通常なら見過ごす様な1通の投書でもちゃんと誠実に対応してくださった石川県知事に感謝の意を表し結びとさせて頂きます。
了